「緊急サインを見逃すな!針灸院に来る危ない患者さんたち」 木村朗子先生
「痺証の臨床推論」 石川家明先生
~「緊急サインを見逃すな!針灸院に来る危ない患者さんたち」~

ともともクリニックに来院された患者さんの中で結果的に緊急度が高かった症例を挙げ、どこでその緊急サインをくみ取るのか、どう行動するべきなのか、をワークショップ形式で考えながら進める勉強会でした。『本当に危ない患者さんは慌ててくれない』というお言葉の通り、どの症例患者さんも病識に乏しい故、我々がその「緊急サイン」を見逃さない必要性を感じました。それぞれのポイントや思考法をお教え頂き、また改めてバイタルサインの重要性を学びました。
Case1「尿が出にくい」69歳男性
解剖学的にどのような状態であれば尿が出づらくなるのか、そして、尿が出づらい時に、体内では何が起きているのか、図を用いてわかりやすく説明してくださいました。
電話で相談してきた患者さんには、具体的な指示をする必要があり、この症例で隠れている危険を見据え、私たちはどう行動すべきなのか、を学びました。
Case2「喘息の治療を希望」78歳女性
顔面蒼白で来院された患者さん。一目見ておかしさを感じるセンサーが必要な症例でした。ご本人の自覚が全くない状態でもこちらからその危なさに気付き、指摘することでこの患者さんの隠れた病態(大腸がん)に迫ることが出来た症例でした。
Case3「疲れる やたら眠い」74歳男性
帯状疱疹発症後より、極度の疲労を感じるようになり来院された症例。食欲は減退し、排尿量も少なくなっているとの訴え。Case1で学んだ「食欲減退」「疲労」「排尿が少ない」の問題が、薬剤性に起きている腎機能障害が原因であることを導き出せる症例でした。どのように疲労の程度、随伴症状を聞き出すのかを含め、思考の方法を順に追ってご説明下さいました。
4症例を残して時間切れとなってしまいましたが、各々が実体験としてとらえ、話し合いながら思考を構築していくことにより、理解をさらに深めることが出来ました。
~「痺証の臨床推論」~
72歳男性の症例を紐解く中で、医療者側からみた患者像である「医療者モデル」と、患者の物語・思いを組み入れた「患者解釈モデル(Explanatory models)」の2つの物語を紡ぎ、両者をすり合わせることで新しい物語「患者・医療者ストーリー」を構築していくことが必要であることを学びました。医療者側である我々が患者の行動や気持ちを推測し、『相手の気持ちになったらどうなのか?』を考え、それによりどう対応するべきなのかのヒントを提示して頂きました。私たちが患者対応をするときには傾聴するだけではなく、自らの専門性を生かして出来ることをする、つまり正しく鑑別し、それに基づいた治療を行う、必要があれば専門医に送ることも迷わない、という態度が必要であることが共有されました。
また、丹塾では何度も取り上げられているOPQRSTに追加して、先に挙げた患者解釈モデル(Explanatory models)を問診していくことが重要であることを症例から理解することが出来ました。(OPQRST+E)
加えて、鑑別疾患を惹起するために必要な「疾患スクリプト」をどのように積み上げていくのかについても触れられ、もちろん教科書や基準、分類などから成り立ってはいるが、過去の経験や失敗からも出来上がっていくものであり、常に患者から学ばせて頂いていることを再認識出来ました。
- 2016/06/19(日) 21:39:56|
- 例会報告
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平成28年1月例会
『新春放談―ナラティブを中心に―』と題した丹沢塾頭講話

新春放談とあるとおり、「気とはそもそも何なのか?」「鍼灸はなぜ効くのか?」という問いを皮切りに、丹沢先生の奥の深い持論を、パワーポイントを駆使されながらご披露頂くなど、新春にふさわしい、楽しくもためになる勉強会でした。
ナラティブに関しては、ナラティブ・ベイスド・メディスン(NBM:Narrative Based Medicine)は一般臨床においてとても重要であり、それ自身が医療行為であること(特に鍼灸は患者と共有する時間が多いので)。「患者さんの物語をポジティブに捉えなおして患者さんに返す、言い換えれば物語を紡ぎ直すのが臨床の勘所である」ともお話下さいました。
そして、第62回会合の内容と絡めながら、EBM(Evidence Based Medicine)は単に「情報の検索」や「得られた情報を批判的吟味」するだけの部分(狭義のEBM)を意味するものではない。そもそも、患者さんにとっていったい何が問題なのかを丁寧に聞き出し的確に問題を把握すること(1)。そしてその問題に対する対策として(狭義の)EBMで得られた結果の臨床場面での実行を行うために、患者さんの個々の状況、好み、価値観を尊重しながら、擦り合わせをしながら合意形成にもっていくこと(2)。以上(1)、(2)の実践のためには対話が不可欠であり、その不可欠な部分を担うのはナラティブ(NBM)であって、(狭義の)EBMとNBMとが合体したものが本来的なEBMであるというお話を頂き、臨床でのNBMの位置づけ・重要性の理解が深まりました。
また、他の医療業種を交えた某ワークショップに参加された塾生から、そこで得られた体験談が披露され、他の医療職者との連携の難しさを感じたこと、さらに西洋医学的な知識、コミュニケーションスキル、情報共有の方法などをどのように学び、関わっていくべきかなどという、真摯な医療者ならではの悩みを抱えた様子を発言されました。その発言を踏まえて丹沢先生からは、丹塾はそれらを学び身につける目的をもって創設されたのである、と、塾生に対しあらためて創設の意義の再確認を促すお話を頂きました。
最後に、NBMを実践するためには、過去の経験こそが原資となる。犯罪を除けばためにならない経験(体験)はないので、世の中のいろいろなことを体験することで患者さんに寄り添う力が生まれ、想像力を発揮できるのだ、と多種多様な経験をお持ちの塾頭がおっしゃったことには説得力があり、印象的でした。
今回も丹沢先生作のパワーポイントが自由自在に変化される様子は圧巻でした。
- 2016/01/19(火) 00:39:55|
- 例会報告
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62回の会合では、『質的研究の意義と実践』と題して、東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科、高梨知揚先生による講義が行われました。
前半では、そもそも質的研究とは何なのか?どのように行われるものなのか?を実際に高梨先生がされた研究をもとに分かりやすくご紹介頂きました。
質的研究は、主として統計学的手法に基づき数字で示される「量的研究」に対し、少数例を詳しく分析し、言葉や文字で表現される研究手法であり、対象者の主観的・個人的な経験を知るためには非常に有効な研究手法であることが理解できました。
後半では、実際の緩和ケアをフィールドにした質的研究のデータが方法から結果まで示され、より具体的に質的研究の実際についての理解が深まる内容でした。質的研究は膨大な時間がかかる根気のいる研究ですが、実際の臨床と密接な関係が多くあることを知り、実り多い勉強会でした。
会合の終わりには、恒例の忘年会を開催しました。
- 2015/12/03(木) 21:13:32|
- 例会報告
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~2015年11月8日に開催された会合のご報告です~

東京都鍼灸師会で副会長をされている岩元健朗先生より以下の講義をして頂きました。
1.2020年東京オリンピック・パラリンピックに鍼灸医療は貢献できるか
- 東京マラソン、東京国体ボランティア活動を通じて -
2.事故対策委員会 ヒヤリハットレポートから
-鍼治療をして腰が痛くなった-
3.地域包括支援システムと介護予防運動指導員
-筋力アップ教室 岩元鍼灸院の取り組み-
1では、現在では世界6大メジャーのうちの一つと数え上げられる「東京マラソン」での、鍼灸ボランティア活動の実績と今後についてご報告頂きました。
一連の流れをご紹介頂き、これまでのご尽力のおかげで、多くのランナーに施術し、喜ばれていたことを知りました。
表題にもありますように、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでもどのような貢献が出来るのかを探っているご様子が良く分かりました。
2では、「鍼治療をしたら腰が痛くなった」と訴える患者症例をもとに、どのように対峙するべきか、鍼灸保険に加入していても、出来ることと出来ないことは何か、など、患者さんとのやりとりを詳細に提示され、説明頂きました。
3では、地域包括ケアシステムと介護予防運動指導員としての針灸師の役割と、それを担うために岩元針灸院で週1回行っている「筋力アップ教室」を実際に行って頂きました。皆で声を出してひとつひとつの体操を行い、それぞれの体操のポイントもお教え頂きました。
次回の会合は12月6日です。例年恒例の忘年会も予定しております。
- 2015/11/30(月) 23:02:08|
- 例会報告
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~2015年10月4日に開催された会合のご報告です~
認知症特集②
◎『「知っているつもり」にならないための認知症講座』 木村朗子先生
基本的な疾患理解だけに留まらず、実際の患者像を通じて立体的に認知症を学ぶことが出来ました。
認知機能検査のひとつである改訂長谷川式簡易知能評価スケールを患者役と治療者役でコミカルに演じて頂き、理解が深まりました。
『認知症となっても感情的な部分は保たれるため、「入浴しなくてはいけない」という事実は忘れても、「訳が分からないまま知らない人に突然、腕を引っ張られ、裸にされ、お湯を掛けられた」という怖い感情はしっかりと覚えている』とのお言葉が印象的でした。
あわせて、認知症予防のためには実は、楽しんで頭の訓練と運動療法を同時に行うことが効果的であることを学び、実際にそれらの運動を皆で体感しました。
◎『認知症と向き合う』 石川家明先生
2008年から来院されている初診時52歳であった若年性認知症(レビー小体型)患者の症例を時系列を追ってお話下さり、「患者家族とつきあう、認知脳とつきあう」についてをご講義頂きました。医療人としての関わり方の難しさ、葛藤、少しずつ悪化していく症状の変化、患者家族からの相談・・・胸に迫るものがありました。
また、レビー小体型認知症患者が見えている幻視の再現映像には恐れおののきました。
症例に挙げた認知症患者さんが、トイレで用を足せない(だから、他の場所で用を足してしまうのかもしれない)、夜間息子の枕元で座りながら寝ていた、ということを思い返すと、どんなに恐ろしい経験をされていたのであろうかと想像出来ました。患者の気持ちに立ち、患者を理解することの大切さを改めて考えさせられました。
次回の会合は11月8日に行われます。11月は第2週目の開催となりますのでお気を付けください。
- 2015/11/04(水) 22:41:40|
- 例会報告
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